監査法人の限界と日本版SOX法への期待 というコラムを読んだ。
この方の書く文章は最近非常に人気があるようだ。こことか読んでいるのだけど、専門・専門外にかかわらず臆せずすぱんすぱんと論じている点はすばらしいと思う。ただ、「論理」としてすっ飛ばしが多い文章が多いのに、どうしても「理屈」大好きな私はちょっと違和感を感じてつづけていて、守備範囲にボールがきてみると、料理の仕方にひとこといってみたくなった。
要するに、「監査人に期待しても無駄」というような手厳しいご意見で、ごもっともな部分もあるのだけどディテルがあまりに不正確でくらくらした。
(以下太字は本文からの抜粋)
ただ、その番人には弱みがあります。企業に「ぜひ使ってください」と営業してやっと監査の仕事をもらったのに、企業が意図的に隠そうとした情報を厳しく監査できるのでしょうか。多くの企業の監査を請け負っている監査法人なら事情はやや違うと思いますが、そうではないところは難しいと思います。
これって何年前の話でしょうね。いまどき、中小の監査法人であっても、新規クライアントは基本的に「なんとか断る」という姿勢になっているんですけれど。いや、断りたくはないのですよ、でもこの人手不足で、そして、これほどリスクが高まっている今、監査法人側から営業してとるクライアントって実際少ないです。そして、一生懸命営業してとったクライアントだから駄目だしできない、というのは、今までの会計不正のトリガーになったことはないと思います。そもそも企業側も監査人が絶対に必要なんですから、「そんな無茶言うならうちは(監査)おります」って言われるのが怖いんです。そこまで監査法人の立場は弱くないですよ。
ライブドアの監査を担当していた監査法人の立場を想像すればわかりやすいと思います。事件発覚の前、あれだけ世間や投資家に注目されたライブドアの監査法人を務めることは光栄なことであり、知名度とブランド向上にもってこいの仕事です。
「ライブドア監査人の告白」によれば、監査法人サイドは何度もライブドアに対し「監査を降ります」というカードをかざしていたはず。むしろ、監査契約を「降りた」ときの訴訟リスクのほうが問題で、監査を降りるタイミングを計っていたのではないでしょうか?該当監査法人がライブドアと縁が深く、無理もきいてきてあげたという事情はあったでしょうが、事件が発覚するすでに2年ほど前から監査法人側はライブドアに手を焼いていた様子で、ライブドアの「知名度」というのも事件発覚前2年がいいところ、と考えると、それほど監査法人側がブランドだのなんだのを意識したとも思いがたい。
中小の監査法人だと立場が弱くて、大手だったらまだともかく。。。という書きぶりですが、じゃあ、中央青山の数々の問題はどこで起きたか、って話になる。こういうことかかれると、大手以外の監査法人に存在意義がないかのようでしょう。たしかに今の時代に公開企業を監査するのには「ある一定のインフラ」が必要なのだけれど、独立性と事務所の大きさは世間が考えているほど相関しないと思う。(インフラの一部としての事務所内の審査機構さえ機能していれば)むしろ、「慣習」とかクライアントとの「なれあい」のほうが独立性に与える影響は大きい。
監査法人の社員と証券会社の社員を同じテーブルに座らせ、ある会計監査の技術的問題について議論をさせると、どちらが勝つと思いますか。大手証券会社には、財務会計に通じた優秀なプロがたくさんいます。「お客様」という上位の立場にあるうえに、多くの知識と経験を持つ証券会社のプロに対して、監査法人の社員が勝てる保証はないと思います。
私は大手金融機関を担当していましたが、確かに金融機関のように特殊な会計基準や会計処理の多いビジネスだと、知識や経験で監査法人側が「圧勝」ということはありません。でも、金融機関側の経理担当者が「圧勝」でもないです。彼等は自分たちのビジネスについてはプロフェッショナルですが、最新の会計基準に精通しており、リソースがあり、特に基準に書かれていない「実質的な判断」を求められた場合、やっぱり本来のプロフェッショナルである監査法人側に分があります。・・・っていうと「じゃあなんでエンロンは」って話になるんですが、思うにエンロンは、その後の議論を総括すると、会社側も「最低最悪のシナリオでこの複雑な輪がとけたらどうなる」っていう絵をちゃんともてていなかったという構図のようなので、会社が全体像をわからないものを監査人がわかるかっていうと、そりゃ無理だって話ですよね。
ここまで書かれちゃうと、監査法人をここまで馬鹿にしなくても良いんじゃない、しかも、自分の思い込みで、とちょっと憤慨。
米国の教訓を活かすためかどうかはわかりませんが、日本のSOX法の議論はもっぱら財務会計に集中しているところに問題があります。
米国も日本も今回報告義務のある内部統制は「財務報告にかかわる」内部統制だというのはご存知でしょうか。内部統制は確かにもっと広義な概念ですが、「投資家に対する報告内容の担保」というのがギリギリ会計士が追いうる責任の最大限です。それ以上の内容を監査しないと資本市場が機能しないんだったら、もう、資本主義やめたほうが日本はいいんだと思います。
そもそも監査法人と企業との間に「業者」と「顧客」の関係がある以上、監査法人に警察と裁判所の役割を求めるには無理があります。監査に携わる方々と経営者の方々に正しい心の姿勢を求めると同時に、企業と監査法人が一緒になっても操作できない別の仕組みの整備を急ぐべきです。
どういう仕組みなのか、それを結論にするならちゃんと示していただきたい!
彼が大筋の方向性として間違ったことをおっしゃってるとは思わない。痛いからこそ、かちんときたところも多くあった。でも、不正確なの情報というのはどうしても腹が立つ。特に、影響力のある人には、どうしても、正確なことを書いてほしい。
ディテールを取り上げて揚げ足をここで非力な私がとっても仕方ないんだけど、日本の会計士の皆さん、「業者扱い」ですよ、これよんでちょっと情けないとか、憤ってほしいところですよ。
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