今週は当社主催ののWomen's Initiative Networking Eventというのがありまして、久々にサンフランシスコにあるオフィスの自分の部屋を暖めました。最近オフィス内の配置がえがあり、廊下のどん詰まり、オフィスの極北のような部屋に一人ぽつんと座っています。前の部屋がスケジューリング担当パートナーの隣でとてもにぎやかだったので、まだ慣れません。滅多にオフィスにいないので、なかなかなれないだろうなー。
さて、これは私の勤務先と、同じビルの中にはいっている某Law Firmが共同開催している「女性プロフェッショナルネットワーク」のイベントでした。このネットワークは、
・入社時は、男女比が50:50なんだけど
・パートナーの男女比は、85:15である
というのが、当社とそのローファームの共通の問題なのだそうで
・パートナーの男女比もぜひ50:50にいたしましょう! という野望にもとづいています。で、ベイエリアで働く女性プロフェッショナルは対象になるので、ぜひ参加してください、というコンセプトです。
まあ、実現可能性はともかく(そもそも実業界だって、ボードメンバーやシニアマネジメントの半分が女性なんていう会社、アメリカでも私、みたことないですから)、15 to 50 というのはコンセプトとしてはわかりやすくていいですね。ごろもいいし。
きっとどこのプロフェッショナルファームでもそうですが、女性のほうが男性よりもターンオーバーが高く、中間管理職を超えるととたんに女性比率がさがります。完全なピラミッド型になっているアメリカ型プロフェッショナルファームでは、その女性の高いターンオーバーが事務所の経営を支えている面もあるんじゃないの、と私はひそかに思っておりますが、まあそれはそれ。
で、今回は、FEI(FinancialExecutive International)の議長を務めていたある女性CPAの方をスピーカーにお呼びしてLuncheon+Networkingでした。
自分でも点が辛いなあ、と思うのですが、女性のプロフェッショナルで成功していらっしゃる方をみて「素敵」と思えるかどうかは、仕事の業績だけじゃなく、その人の雰囲気、見た目なんかも厳しくチェックしてしまいます。男性にはおそらくよくわからない感覚でしょうけれど(笑)。 このスピーカーはそういう意味でも素敵な方でした。1971年に大学を卒業ってことは、そろそろ50半ばかと思いますが、若々しく、品のいいスーツを着こなしていてとてもチャーミング。目をきらきらさせながら語ってくれました。
メッセージは、きっといろんな女性向けの成功本でも書いてあることなんでしょうが、同業であるがゆえに自分にとっては伝わりやすかったし、ジェンダーを問わないと感じたので、ちょっと要約してみます。
・本当にやりたいことを探しなさい、そして手を上げることをためらわないで。
彼女が某大手会計事務所のボストンオフィスで勤務を始めた1971年という時代は、会計事務所の女性プロフェッショナル比率は5%以下だったそう。しかも、「女性に監査なんてできるわけない」ということで、最初は税務部門でひたすら確定申告のための入力作業をさせられたといいます。彼女は、事務所内部をとっくり観察し、「監査部門がこの事務所でのメインストリームであり、主要業務である」とみて、まずは監査をさせて欲しい、とオフィスのトップに直訴して、監査部門への進出を図ります。
・手を上げた仕事はやりぬきなさい、誰にも文句をつけられないクオリティで。
そして監査部門でも、彼女は個人商店や非営利団体などの「メインストリームではない」クライアントばかりを割り当てられ、製造業や公開企業などの「レジュメに書ける」クライアントにアサインされないという辛い日々が続きます。当初、出張のある仕事は「医者である君の旦那さんが不自由だろうから(!)」という理由で全く入れてもらえなかったそう。彼女はここでも、「私はできます、やります」と言い張って男性に伍して出張や残業を引き受け、周りの男性に認められることに成功します。
まあ、当たり前の話なんですが、やりたがる割に成果を残さない人って、アメリカ人には大勢いるので、認めてもらうステップとしては凄く正しい。ここでは、自分で手をあげて(これポイント)、それをやりぬく、というのが一番評価される、というのを私は今までの経験で身にしみて感じてまいりました。与えられたことをそつなくこなすだけじゃ駄目なんですよね。
・短期で物事を考えすぎてはいけない。チャンスを見抜いてそれにチャレンジするのには、数年のスパンが必要なこともある。
彼女がボストンで過ごしたのが5年。その間の大半は、思ったうような仕事をさせてもらえず、葛藤の日々だったといいます。「最近の若い人は。。。っていうと、自分がすごい年寄りみたいでいやなんだけど、最初の1年や2年で、つまんない、もっと面白い仕事をしたい、といって仕事を変えてしまうけれど、もったいないわ。もちろん外にもチャンスはあるかもしれないけれど、中にもあるかもしれない。チャレンジする前に投げ出してはいけないわ」
Come and Go, というのが定着しているアメリカの会計事務所においても、昔はそういう文化があったんですね。いやー、3年目くらいで「定時でかえれてお給料が30%あがるから」といってぽいぽい転職していくスタッフを見ていてもうすこしがんばれや、とおもうんですが。本当に。。。
・ロールモデルを見つけなさい。それが運良く自分のボスだったら、誠心誠意尽くし、学びなさい。
彼女は医者である旦那さんがポートランドの病院に職を得るとともに、西海岸への転勤を申し出たのですが、当時の勤務先のポートランドのオフィスには受け入れてもらえず、別の大手事務所でポジションを得ます。そこで当時シニアマネジャーで、その後パートナーになり、最後はそのオフィスのトップになった男性ボスが、彼女のキャリア上のメンターとなります。彼女はその事務所での8年間、そしてその後も彼の影響を強く受けて仕事を続けます。彼は、野心があり、ビッグピクチャーをもち、部下の提言に耳を貸すことのできる、すばらしいボスだった、と。
男性がメンターになりうるだろうか、という質問に対して「自分がメンターのライフスタイルを真似る必要はないので、仕事のスタイルに関してだけ学べばいい。」ときっぱり。ま、そりゃそうです。私も、こちらでの仕事がマネジメントロールに入ったとき一番参考にしたのは、自分がずっと一緒に仕事をしていた男性上司でした。
・柔軟な姿勢をわすれず、どんな仕事からもチャレンジを見出しなさい
もうすこしリベラルであることを期待してやってきた ポートランドでも彼女が直面したのは、やはりメインストリームの仕事は男性中心でまわり、なかなか自分に与えられない、ということでした。シニアアソシエイトになっていた彼女は、現場責任者としてエンゲージメントに関わる立場だったので、それもまた、新参者の女性が大きな仕事に関わることを難しくした、といいます。
子供もできた、家庭も大切にしたい、だからといって、キャリアで妥協したくない。そこで与えられたのが、今ゼロに等しい、政府関係のプラクティスをリードしてくれ、というボスからのアサインメントでした。政府機関のクライアント、というのは会計事務所にとっても重要なのですが、やはり当時、戦略クライアントとは見られていまでんでした。彼女は悩んだすえ、そのアサインメントに取り組みます。ここで、そのエリアの公共交通機関ネットワークや、港湾オフィスなど、大口の顧客を次々獲得し、公共機関ビジネスはそのオフィスにとって公共機関部門はなくてはならない一つの柱として育ち、また「政府機関関連の会計監査」は、彼女の専門性のひとつにもなります。
・ネットワーキングは大事。自分の調子がいいときにはできるだけ周りを助け、味方を作っておきなさい。窮地に陥ってから助けを求めても誰も助けてはくれないから。
彼女はその後、会計事務所を去り、公開企業のCFO職やボードメンバーを歴任した後、ある州の公認監査人として働くのですが、ある公共事業のプロジェクトの不正を摘発したことで敵を作ってしまい、いきなり罷免されるという憂き目にあいます。それもかなり巧妙に仕組まれて、彼女の仕事を完全に否定される形で職を追われたのだそう。 そのとき、今までの彼女の真面目な仕事振りや業績を知っている多くの友人がそれに大して強い反発を抱き、多くの嘆願書を書いてくれたり、次の仕事を紹介してくれたりしたのだそうです。
ただそれも、彼女が積極的に周囲にかかわり、同僚や後輩や、以前の勤務先の関係者とのコンタクトをマメにとり、相談に乗ったりひとを紹介することをいとわなかったからだとおもう、といっていました。
ちょっとずれますが、海部美知さんが「ワーキングマザーの孤独」 と題してブログでもちょっと触れられていますが、子供を持つ女性にとってのネットワーキングはそれはもう大変だと思います。日本のように、仕事上の社交の中心が夜という国はさらにそうでしょうね。ネットとランチの最大活用、というのがおそらくシリコンバレースタンダードですが、日本もそうなってくれるといいなー。。。
・・・という訳で、なかなか示唆にとむセッションでした。
最後に、「会計事務所や法律事務所のなかで、女性が真に成功していくにはまだまだいくつものハードルがあるけど、今まで30年でこれだけ変わったのだから、これからの30年でそれがスタンダードにできるはず。私は残念ながらそういう時代に生まれなかったけれど、今キャリアをスタートさせたあなたたちにはあきらめて欲しくない。大きなチームの中に子供を持った女性がいる、子供を持った女性が責任あるポジションにいる、そういうことをデファクトにしていきましょう。」ということで締められたんですが、これは、アメリカでも長い道のりになるとおもいます。そもそも、出張も長時間残業も業界スタンダード、みたいな業界なので、結局、まず、男性も含めて働き方をかえる必要があり、そのへんはまだまだ試行錯誤です。ヨーロッパとかは実現されているのでしょうか?
ちなみに、こういう「ワークライフバランス」議論になると日本ではすぐ、「国力の低下」みたいな話になるのが残念なんですが、このまま「子供を持つと責任を持った仕事ができないから子供持てない」>少子化、とか「責任のある仕事をする能力があるのに子供がいるからそれができない」>女性が定着しない、とか言う状況が続くほうがよっぽど国力は低下すると思うのですが、、、まあ、その辺の持論もまた今度。
素晴らしいメッセージですねー
わたし、悲しいかな、女性のロールモデルに職場で出会ったことがないのですが、こんな人が周囲にいてくれるといいなー
>ネットとランチの最大活用、というのがおそらくシリコンバレースタンダードですが、日本もそうなってくれるといいなー。。。
ここシンガポールもそうですよー
「アフターオフィスは家族との時間」という価値観がもとになっているのはもちろんのこと、夜のネットワーキングってお金かかりますよね?
結構そういう現実的な判断も理由だと思いますが。
>そもそも、出張も長時間残業も業界スタンダード、みたいな業界なので、結局、まず、男性も含めて働き方をかえる必要があり、そのへんはまだまだ試行錯誤です。ヨーロッパとかは実現されているのでしょうか?
プロフェッショナルファームのワークライフバランスはどこの国でも厳しいですね。
私の友人のケースを2つ。
1. シンガポール、PWC勤務、2人の子どもの母親
子どもが生まれたときに現場貼り付き(東南アジア各国出張)のデューデリジェンスチームからシンガポールオフィス勤務のバリュエーションチームに異動させてもらった。
去年から子どもともっと時間を過ごしたいと思って週4日間勤務にしてもらった(ただしバリュエーションのプロジェクトに入っているので、4日間の勤務日は残業多い)。
ある程度シニアになると融通が利くようです(それでも夫婦ともに会計事務所なのでかなり長時間勤務な2人です)。
2. ヨーロッパ各地、McKinsey
勤務時間はオフィスによってバラツキがあるらしい。McKinseyのコンサルフィーはグローバル体系であるため、イギリスの会社が比較的余裕を持って払えるのに対し、南欧の会社で高額フィーを払えるような会社は少ない(高額フィーに対する要求が厳しい)ため、ロンドンオフィスの友人が比較的人間的な生活をしているのに対し(よって、turnoverも低め)、南欧(マドリッド、リスボン、ミラノ)オフィスの友人は馬車馬のように働き辞めていっていました。
国によってクライアントの要求レベルが異なるので、そんな事情も影響する、というお話です。
投稿情報: la dolce vita | 2008/10/04 04:22
>la dolce vita san
いやー、職場でロールモデルを見つけるのはアメリカでも難しいですよ。現パートナー女性陣は「ダンナと子供とまとめて自分が食わせている」ような超タフな人ばっかり(苦笑)。旦那さんは家からできる自分のビジネスをしつつ子供の面倒みる、とかいうフレキシビリティがこの地にあることもありますが。でも、どっちもフルタイムでも働いていける程度の環境を整えていかないと、やっぱり女性のパートナー比率は伸びないでしょうね。
アジア諸国はやはり残業が多いというイメージで(それが日本人も伍して長時間働くべし、という主張にたまにつながる)女性のプロフェッショナルも日本よりはずっと多いですよね。その辺の事情もまたお教えくださいませ。
投稿情報: lat37n | 2008/10/04 06:18