予断を許さぬ状況が続くアメリカの金融危機ですが、昨日Bailout Planが通らなかったときは、サラ・ペイリンのスピーチをはじめて聞いたときと同じくらい驚きました。。。ほんとアメリカという国は読めない。上院は通る、という見通しで動いてるのかもしれないけどまだまわかんないですね。
緊急避難というか、ともかく恐慌を避けるためのBailout Planですが、同時に、「時価会計の廃止」というのも真剣に議論されております。FTによると、欧州では、仏サルコジ大統領が動いているとか。日本でも時価会計の導入時に産業界からものすごいプレッシャーがかかりましたが、まあ同じ話ですな。実際自分の友人で投資のお仕事をされているitsanyclifeさんみたいに、識者でもその方向性に賛成の人は多くいらっしゃいます。
でもって、本日SECから出てきたのが、こちら。私が読んだとおり、SECとFASBは面子にかけてFAS157を死守しております。無論、「マーケットが存在しなければ、レベル3に入れて、マネジメントの判断で評価していいのだ」とか判断を緩める方向ではあるのですが、FAS157の根本を揺るがすものは何もない。
この中で、キーはこのセンテンスですね。
Transactions in inactive markets may be inputs when measuring fair value, but would likely not be determinative. If they are orderly, transactions should be considered in management's estimate of fair value. However, if prices in an inactive market do not reflect current prices for the same or similar assets, adjustments may be necessary to arrive at fair value.
「あまり取引のない市場での時価(投売りがたまにぽつんぽつんとおきるCDO市場とかを想定)は、公正価値を決めるにあたっての要素になりうるが、決定的ではない。もしそれが秩序だったものであれば、その取引はマネジメントの公正価値評価で考慮されるべきである。しかし、あまり取引が活発でない市場での価格が、同じもしくは同様の資産の現在価格を反映していなければ、公正価値の決定に当たって調整が必要である」
Read between the lines って感じですねえー。
しかしこれ、あんまり、今年3月のレターと変わってない気がします。これじゃ、時価会計廃止へのプレッシャーはしばらく続くのでしょう。で、アメリカなので、やっぱり時価会計中止、とかいう可能性もあるんだけど、私はやはりSECとFASBにはそこはしっかりしていていただきたいですよ。
私と同じことを考える会計士は多いのでしょう、会計士業界が猛烈に時価会計廃止反対に動いている、という記事がでてました。 これは要約すれば、「別に時価会計は今始まったものではない(FAS157は新しい基準ですが、有価証券の時価会計はアメリカでは遥か昔にはじまっておりました)」「投資家が評価を信用できなくなっても混乱を招くだけ」ということで、まあ、私にとっては理解しやすい内容です。
追加すれば、こちらのような意見も。 1980年代のS&L破綻のときの話で、危機回避のためにincome capital certificates(一種の支払手形ですね)を自己資本に含めるたり、net worth requirementを4%から3%にさげたりして一生懸命下駄をはかせたんだけど、結局それが問題を長引かせた。。。んだそうです。このあたりは、私あまり詳しくないので、あとで復習してみます。
ま、私の意見はこのときと変わりません。「ものさしを変えても実態は変わらない」。JPMorgan Chaseのアナリストが、 “blaming fair-value accounting for the credit crisis is a lot like going to a doctor for a diagnosis and then blaming him for telling you that you are sick.'' っていってらっしゃいますが、同意。
その時点での公正価値が実際に売れる値段ではないから違和感があるっていう議論はわかるんですが、それでは現代の財務諸表って言うのはなんだ、っていう話なんですよ。結局、「よくわかんない中でのBest Guess」を開示しましょう、っていうのが現代の財務諸表へのコンセンサスだと私は理解しております。で、さすがにコンセンサスを動かすのはまずいよね、ってはなしです。
時価会計を一時中断する、というのは加えて、効果も大したことないと思います。ものさしを勝手に動かすことが投資家に不安を残すのは変わらないし、むしろ、妙に投機的な動きをする危険もあります。そういうちまちました下駄を履かせていないで、乱暴ですが、さっさとBailout 法案とおして、公的資金を投入してしまえ、と思います。もちろん、そこに大きな問題を含んでいるのは理解していますが、駄々こねてたってしょうがないでしょう。(と、国民ではないから何も口出しする権利はなく、一方でアメリカに税金はごっそりもっていかれている私には、言う権利、ありますよねー。笑)。国民に説明可能にするために必要なんだったら、報酬制限だけでなく、過去期間の返還もさせたらいいんじゃないかしら。某日本では不祥事を起こした金融機関が前頭取までさかのぼって役員報酬返還とか、してるわけだし(苦笑)。
ちなみに新聞記事とか人様のブログをよんでて、FAS157ってあまり世間の理解を得ていない会計基準なのだなー、と思いましたです。まあ、私も現在実務では適用しているクライアントを担当しておりませんが、あまりにも衝撃的な会計基準だった(それはむしろ、エンロンよ再び、になる危険な会計基準という意味で)ので、マニアックに追いかけてきて2年ちかく。ちょっとここらですこしまとめて見ます。。。眠くないときに、気が向いたら。笑
Face Valueのほうは、理屈に合わないような気がしますけどね…。「金の価格を固定しろ!」とあまり変わらない感じです。
投稿情報: jk0307 | 2008/10/02 00:42
>jk0307-san
先日はどうもー!その、牛津に友人が住んでますので、近々訪れたいと思ってます。牛津。
この件、日本のメディアの報道が全然トーンが違うのを知ってちょっと腰を抜かしそうになったところです。時価会計凍結けしからん、と書いてるのをみたんですが、いや、確かにけしからんですが凍結してないんだけど。苦笑。
投稿情報: lat37n | 2008/10/03 08:03