最終回の第6回まで終わってしまったドラマ「監査法人」。
所用で日本に帰国していた間に、身内から録画しておいてもらったDVDを預かって、しかしまだ2回目の途中までしか見ていません(汗)私、もともとテレビを見る習慣がないので、録画してあったものを見るという行為もなかなか前に進まないのです。。。
会計系ブログを中心に、いろんなところであげられている「これっておかしくないの?」という点はいくつかあるにせよ(だから会計士は決算を「承認」しないんだってば、とか、銀行に嵌められて不正を行って会社がつぶれるとかよくわからん、とか)よくできたドラマだとは思うし、私たち会計監査に従事するものにとっては家族や友人に監査の仕事の一端でもわかってもらえるいいチャンスではありました。
しかし、じわじわと広がってきた違和感が、「厳格監査のためならば」と「古いタイプの会計士」と対立しつつも、その意義付けに苦しむ主人公たちの姿。このドラマの中では「厳格監査」「古いタイプの会計士」というフレーズが繰り返し出てくるのですが、「なんのための厳格監査?」ということがすっぽりぬけていることが、このドラマの奥行きを浅くしているような気がしてなりませんでした。 ドラマからだと、会計士の「正義感」が「厳格監査」に走らせているように見えますが、本来は違います。会計士は、企業を「正義をもって裁く」存在などではないですし、そんなことを思っている会計士はいないのではないでしょうか。
企業の業績を評価するのは市場、そのために決算書が正しいかどうかの保証業務が監査です。 監査を厳格にしなくてはいけない、という昨今の潮流は、もともとは不正決算があいついだ米国で、企業決算への信頼性を取り戻そうという資本市場からの要請でした。日本も、昨今の会計不祥事の連続でそのように方向が変わってきました。ゆえに「厳格監査」は投資家のためのものであるはず。もちろん「厳格監査」の結果、投資している会社がつぶれたり、株価が急落することを既存の投資家は望んでいないでしょう。ただ、「投資を行うか、行わないか」の判断は、やはり信頼に足る決算書で行わなくてはいけない、という意味で、少なくとも新規投資家には必要な情報で、資本市場の安定のためには厳格な監査は確実に必要です。まあ、そこまでをドラマで織り込むのは無理だったのでしょうが。
そして、私の見ていない後半の回では、厳格監査を標榜していた会計士たちも粉飾に目をつぶらざるを得ない局面に遭遇するようで、まあ、厳格監査だけを目標にできたのも、事務所の経営を考えなくてもいい立場だったから、というのは切ないですね。しかし、普通に仕事をしているだけで、これほど強い意志を必要とする仕事も他にないような気がしてきました。粉飾に加担しても辛いし、粉飾を糾弾しても辛いし、なんか、しんどいしごとですよね。「厳格監査」と昔ながらのクライアントに寄り添う監査のハザマで揺れて行方をくらませた代表社員が「次は、自分の身の丈に合った仕事をするよ」と言うのを痛ましい思いで見ました。しかも、主人公の「厳格監査」人、家族からは見捨てられちゃうようですし。このドラマを見て会計士になりたい、と思う若い人がいるかなあ。。。
ちなみに、アメリカの同僚たちに、「日本では今ね、"The audit firm" っていうTVドラマをやってるんだよ~」といったら非常に面白がっていました。「こんなドラマチックじゃない仕事がどうやってドラマになるんだ」というのがもっぱらの見解。ていうか、「厳格監査」で会社がつぶれる、とか、人が死ぬ、とかいうのが全くぴんとこないだろうな、と思います。監査を厳格にやったらつぶれる会社など最初から市場に存在する価値なし、というのがアメリカ人の見解ですからね。(まあ、その辺は昨今のサブプライムと金融資産の評価では、アメリカでも監査が厳しすぎると金融機関が全部つぶれてしまう、という論調はあるんですけれど)
ところで、会計士らしく?各回の粉飾と現実の事件を勝手に結びつけて楽しんでみたいと思います。
第一回 未完成の販売住宅を「完成工事」として売上計上してしまう=ミサワホーム九州。えー、こんなあこぎなことするのーっ、とおもってたら、住宅販売会社を担当していた知人会計士いわく「数年前まで業界の常識だった」と。うーん、おそるべし。
第二回 不良在庫の飛ばし =カネボウ カネボウで「宇宙遊泳」という不良在庫毛布が、飛ばし会社の間を浮遊していたのですが、SPEも全部連結という方向に向かう今後、こういう話はだんだん昔語りになるんでしょうか。
(以下は予告サイトからの情報より)
第三回 コンピューターシステム会社の架空循環売上 =IXIかな? 先日、あるPEの方から、架空循環取引ってどうしてわかんないんですか、っていう質問を受けたのですが、既存の監査のやりかかたではもっとも判断が難しいものだと思います(すべて関連の監査証拠がそろってしまうので)。リスクが高かったらどういう監査手続きをするべきかなー、というのは私も頭をひねるところです。。。(後日注:ドラマの中では各取引先に乗り込んでいって問い合わせしていましたが、現行の監査資源でそれができるワケないし、下手したらクライアントに業務妨害で訴えられちゃうよなあ。。。)
第四回 繰延税金資産を5年分つんじゃった銀行 = 足利銀行か、りそなか。繰延べ税金資産の資産性を判定するということは、会計士に課されたかつてない重い判断だと制度設定当初、当時補修所で習ったんですが、最近はそんな判断を問う会計処理ばっかりになっちゃいましたね。
第五回 加盟金収入の出店前計上=一大会計不正として数年前米国を騒がせたクリスピークリームの事象に似てますが、さすがにあの会社も米国で上場してましたので、加盟金売上はUSGAAPに準拠して出店時に計上してました。日本ではこの辺をシロクロつける基準はないのですが(以前に実務を調べたことがありますが、フランチャイズ形式をとる各社、見事に処理はバラバラでした)。後日注:加盟金は出店時計上、と主人公会計士は主張してましたね。えー、と思ったフランチャイズビジネスの企業も多いのでは。。。
はじめまして。ベイエリア在住のゆっこと申します。
「パラダイス鎖国」を検索していたらたどり着きました。同じ本の感想でもLAT37Nさんの深い洞察力に感激。思わずコメントを残させていただきました。他の記事も興味深く、今じっくり拝見させて頂いています。これからも楽しみにしています。
投稿情報: カリフォルニアのゆっこ | 2008/07/25 23:37
> カリフォルニアのゆっこ san
はじめまして。ゆっこさんのブログ、私は実は何度かおみかけして、どーやったらこんなに素敵な写真が撮れるの?とため息ついてました。本の感想へのコメント、ありがとうございます。ゆっこさんの感想も読ませていただいたのですが、最近の若い方は現実的なのかもしれませんね。若手の同業者と話して「国内も競走が激しくなってきて、海外に出て、下手な英語で苦労して何年か『ロス』余裕はないんです」と言われて、そうなのかぁ、とちょっと落ち込んじゃいました。笑 まあ、それ以外に得られるものも一杯あるんですけどね。。。
今後もよろしくお願いしますね。
投稿情報: lat37n | 2008/07/26 12:22