味わい深いことをおっしゃるなあ、と思った日本新興市場論。
トーマツのパートナーの北地会計士がCNET JAPANのインタビューでこたえていらっしゃる、『新興市場NEO 会計士から見た「マイルストーン開示」に込められたメッセージ』です。
会計士的に心に残った箇所を切り貼りの抜粋で失礼なのですが、ちょっとご紹介。
(ベンチャー企業を監査する)監査法人、会計士として最も重要なことは何ですか。と問われていわく
「ベンチャーへの愛は感じながらも淡々と監査をすることです。」
・・・おっしゃるとおり。ライブドアも公開前から監査をずっとしていた会計士たちが、会社との距離が近くなりすぎて、会社の意見を飲み続けてしまった事情があるようです。そう、愛がほとばしってかわいがりすぎると、お互い甘えが出るんでしょうね。結果とんでもないお化けを育ててしまうこともあります。
監査に対しての心構えとして
「私が監査をする上で常に想定しているのは、ある人から聞きましたイギリスの田舎の会社の株主総会の模様です。イギリスの中流階級は質素で、大勢の黒い服を着た老人が配当を期待して座って総会に参加しているそうです。元気が良くてまだ働ける人たちが損をするのとは、わけが違う。この姿を想定して監査にあたることが、我々の原点だと思っています。」
・・・私が監査をする上で常に想定しているのは、監査に失敗して裁判所で1ドルでも多く回収しようとする投資家につるし上げられる自分、新聞でたたかれる自分、ですが、アメリカでの数年間は自分をちょっとかえてしまったのだろうか・・・
まとめ 「こうして会計士と企業の間に緊張感のあるいい関係を作り、お互いがお互いを育てていける環境をお互いが作っていこうとすることが、何よりも重要なことなのではないでしょうか。」
I can't agree more ですが、本当に難しいことのひとつであります。
ちなみに、新興市場NEOとは、上場申請日において、成長可能性のある新技術又は新たなビジネスモデルに基づく最初の売上計上のときから10年を経過していない「新しい会社」が対象の、今年9月に新設された市場です。特徴的なのは上場前の利益要件をはずす(&緩くする)ことで、高い技術を持っているけれども開発にお金がかかってなかなか黒字化しないため上場できないテクノロジー企業に上場の道を開いている、ということ。上場要件をゆるくする代わりにかわりに、マイルストーンの開示を行い、専門家から「技術評価書」を入手することが条件なのだそうです。もう少し話題になるかなーと思ったら、そうでもないですね。。。
この背景には一時期やたらと上場させて批判を浴びてしまい、ここ数年1社も上場事例がないバイオベンチャー上場の受け皿に、ということがあるといわれているようです。
面白い取り組みですが、これをなかなか収益の出ない企業の上場の「抜け道」にするのは私は反対で、正直言ってこの新興市場自体にはあんまり好印象がないです。
たしかに売上がたつまで時間のかかる技術系企業が資金調達をしながら前に進むのに何らかの方策は必要なのですが、それを一般投資家に求めてはいけないとおもう。どんなに詳細にマイルストーンを開示しようが、10社のうち1社生き残れればいいほう、というバイオ産業をはじめとするテクノロジー系ベンチャーの、その他9つを上場させてしまって起動に乗る前に一般投資家に大きな損をこうむらせた場合、JASDAQ東証の責任は根深いのではないでしょうか。やっぱり、離陸していない企業に投資をするのは、個人投資家ではなくリスクをきちんと取れる機関投資家だけに限るべきだとおもいます。
アメリカはどうなんですか、というと、利益基準を排除した市場なんてものはないですし開示基準も投資家からのったかれ方もこれほど厳しい株式市場は世界で類をみません。が、バイオをはじめとした技術系のStart Upは盛況なわけですよ。そのへんは専門領域でないので断言できないですが、上場以外にもM&AでのExitがかなり浸透していること、そしてアーリーステージから資金需要にお付き合いできる大規模なVCがあるていうところが違いなのでしょうね。
バイオに代表される先端技術の多くって全世界共通なものだとおもうし、積極的に海外の資金を入れて成長したうえで、堂々と上場してほしいなあと(そのときは東京ではなくてNASDAQっていうのもありじゃないかと)思います。。。って私は一会計士だから言えるけど、JASDAQ東証の立場からは「バイオは海外で成長してください」って言うわけにもいかなかったんでしょうけども。。。
はじめまして。欠損のたんまりある技術系ベンチャーで働いている者です。
うちの会社も(一瞬)NEOを検討したのですが、弊社の会計に無頓着な経営者ですらこの市場に将来はないんじゃないかと結論付けました。。
(あえて企業の立場から考えると)こんな市場に経済合理的な投資家が集まるわけがなく、利ざや狙いの短期トレードが横行し
安定株主を期待することも無理。また証券会社もうまみが少ないし(大規模資金調達ができるわけない)、びみょーな創業者利益の実現があるだけな気がします。
最近の中国のベンチャーのように米国で(ADRとして)上場を目指す気概と、エンジェル・VCレイヤーの増加がないと本質的な環境改善にはならない気がします。
最後にですが、運営会社は東証ではなくてJASDAQだと思います。今後もエントリー楽しみにしてます。
投稿情報: kei | 2007/11/10 21:28
kei-san
コメントありがとうございます。そうか、JASDAQでしたね、失礼しました。。。おっしゃるとおり、市場の成り立ちから、大規模資金調達が難しいだろうというのもネックでしょうし、市場が混乱することも大いに予想されますね。一号案件が年内に出るようだと書かれていたので、その成り行きを見守ってみたいとおもいますが。
ちなみに、今アメリカで、米国上場を目指されている中国系企業とお付き合いありますが、彼らを見ていると日系企業ももっと積極的にNASDAQ上場を目指されてもいいんじゃない?と思っております。
投稿情報: lat37n | 2007/11/11 10:33