今年の春先から話題になっていたことですが、2006年度3月期の年次報告書を1年半かかってもファイルできなかったNEC。とうとう上場廃止になってしまいましたかー。
”NECがナスダックに上場しているADRは発行済み株式の約2.9%で、時価総額約320億円。記者会見した小野隆男常務は「資金調達面で影響はない」とする。ただ、有名な株式市場から「退場」させられることで企業としての信用を落とす恐れがある。また、ADRの解約手数料も負担する方針だが、株主に訴訟を起こされるリスクもある。”
”NECは昨夏、SECに出す年次報告書の作成に関し、情報システムの保守・サービスの売上高の計上方法が適正だと証明できるデータを出してほしいと米国の監査法人に求められた。米国の専門コンサルタントの手も借りて対応したが、ナスダック側に指定された今月25日の報告書の提出期限に間に合わなかった。 ”
”情報システムに関する取引は、ハードウエア、ソフトウエア、保守・サポートサービスなどを一括で引き受ける「複合契約」が多い。監査の厳格化の流れを受け、米監査法人はこの複合契約がどんぶり勘定になっていない「証拠」として、10年以上さかのぼった標準価格表などが要るとした。 ”
”だが古いデータは廃棄していた。もともと価格設定を厳密に決めず、割引率も取引の相手や内容によって変えているため「証拠」も用意できず、後付けで合理的な説明がつくような計算方式を編みだそうとしていた。 ”
”NECはそれまで、顧客との契約書を「証拠」とし、監査でも認められてきた。小野常務は「あまりに突然で、全く備えていない要求だった」と無念そうだった。 ” (以上asahi.comより抜粋)
資金調達上は問題ないにしても、日本と米国のIT企業の「開示要求レベル」の違いがここまで大きい、という事態があきらかで、2011年会計コンバージェンスなどなしえるのだろうか?というのが目下の私の疑問であります。
個人的な感想ですが、これは監査法人であった新日本の責任がないとは言えないケースだと思いますね。日本のソフトウェア業界独特の販売慣習など困難な面もあったのは事実でしょうが、2006年に入っていきなり監査手続を厳格化させたというのはあまりにも対応が遅かったのではないでしょうか。
ここでいっている「監査の厳格化」とは、米国での2001年のEITF00-21発効により、複合契約(ソフトウエアとサービスを一緒に提供するような契約)において、個々の要素(たとえばソフトウエア自体とサービス)をそれぞれ収益認識するために、構成要素の公正価値(Vendor Specific Objective Evidence VSOEと略されます)をそろえる必要ができた、ということに関連しての流れです。米国では、この数年でどの会社も複合型売上にかかわるVSOEをそろえるという取り組みをしてきました。その過程では各会計事務所、かなりの指導もしてきておりますし、米国企業でVSOEがそろえられなくて年次報告書をファイルできなかったという話は聞いたことがないですね。
もちろん一義的にはNECの責任で、米国会計基準に精通した財務経理担当者をおいて対応させるのが筋だったとおもいます。日本人でそんな人はあまりいないでしょうが、別にアメリカ人であってもこの際良かったと思うんですよね。通訳とか翻訳のできる人ならいくらでもいるんだから。
で、会計監査人である新日本も「国際的会計事務所」の看板を掲げるならば、提携先であるE&Yのアメリカの品質管理部門と早期から密に連絡をとり、なにが求められる「レベル感」なのかを把握してクライアントに対応させるべきだったんじゃないの?と思うわけです。2001年とか2002年に発効している会計基準に対応しての監査基準の厳格化が2006年から急におこなわれたというのは、おそらくSOX対応の過程で「あれれれ??」が出てきたんだと思いますがあまりにお粗末ですよね。
まあ、勧告していてもNECが出来ないといいつづけていた、という可能性もありますが、会計事務所側も事態の重要さをあまり把握していなかったんじゃないのかな、という可能性は高い。私も、2004年から米国で仕事を始めたときに、「じゃあこの会社のRevenue recognition testを」といわれて、そのチェックリストの長さに目を丸くしました。それでEITF00-21を読んでみて「ははぁ。。。」となったわけで、日本とアメリカの間の会計処理で一番温度差があるのは売上計上基準だと思います。今でも、日本にリファーラル・ワークを頼んだりしたときに、かつて米国での勤務経験があるパートナーと話しても「なんでそんな細かいテストがいるわけ??」となるので、この数年間の米国の監査環境の変化が大きく、離れているとその温度差が伝わらなかったのもわかるんですが。
NECの会計処理に関し、バックグラウンドの更に詳しい説明についてはこちらをどうぞ。
ツールや規定の共通化はできても、運用する際の価値判断や場の空気感までは伝えきれないのが「グループ会社」ではない「メンバーファーム」の限界なのでしょうか。本当の意味でクオリティが均質化できていないのなら、「国際的会計事務所」の看板に対して羊頭狗肉の感は否めないですね。
よくパートナーには「こういうニュアンスのことをぱぱっと英語にしてメールしておいて」って言われたのを思い出しました。こういう「連携」の実情がわかっているだけに厳しいなあとは思いますけど。。。
投稿情報: tsuyoshi | 2007/09/22 19:26
>tsuyoshi-san
書いてから、読みようによっては感じが悪かった?と思ったんですが、別に米国>日本、って言いたいわけではないんだけどね(と、T氏ならわかってくれてると思うけど)国を代表する企業のひとつが米国基準で決算が出来ないのにあと3年でコンバージェンスとかできるのか、そもそも意味があるのか?ってことなんです。で、企業のみならず、監査法人もそれにはそもそも対応できてないという感が強い(もちろん自戒の念も込めてます)。
投稿情報: lat37n | 2007/09/23 01:17
>別に米国>日本、って言いたいわけではないんだけどね
もちろんきちんと伝わっていますよ!
時代の流れに逆行してますが、時々「コンバージェンスなんて本当に必要なのか?」って思ってしまいます。僕は日本にいるときからその意義には懐疑的でした。
すごく長くなりそうな話題なので(笑)、またゆっくりお話させて下さい。
投稿情報: tsuyoshi | 2007/09/24 20:25
>tsuyoshi-san
それぞれの国で市場のルールに従うのは必要なことで、その運用にドメスティックなメンが残ってもいいかな、と思うんですよね。NECに関して言えば、自主的にさっさと上場廃止しても良かったと思う。前例がないわけではないし、日本で公開しているだけで資金調達上問題がないなら(まあ、社債の格付けとかでUS上場のステイタスがかかわっているのやもしれませぬが)。
コンバージェンスの次は会計士資格も相互乗り入れ制になったりするのかな。10年先の話だなあ、という気がいたしますが。
投稿情報: lat37n | 2007/09/25 01:10
lat37N様
偶然にも、私のブログで同じ話題を取り上げてしまいました。(記載内容、これで会計的にあってますでしょうか?)
確かに、新日本監査法人にも責任があると、私も思います。ただ、日本にいると、USGAAPにキャッチアップし続けるのは、本当に辛そうだなあ、昔の同僚を見ていて思います。
投稿情報: cpainvestor | 2007/09/26 09:17
>cpainvestor-sama
そちらにコメントをつけさせていただきました。確かに日本にいながらUS基準をおうのは大変なんですが、監査法人ですら出来ないことを一般企業にさせる方が難題でして、いったい昨今のコンバージェンスの動きはどのレベルに収束させるつもりなのかな?というのが疑問です。まさか、コンバージェンスしたのに、日本の大企業がUSでは財務報告ができなくて上場できない、というような事態になったらおかしいじゃないですか。でも、たいていの日本企業にとってSOP97- 2の処理をするのはものすごい難題かと簡単に予測がつきますので、橋渡しになるような会計基準を日本で打ち出していかないとまずいのではないかと。
投稿情報: lat37n | 2007/09/27 00:16
LAT37N様
ブログへの有意義なコメント、ありがとうございました。私は、国内監査及びUSGAAP監査からは既に足を洗っております(笑)。
いつも、米国ならではのレポート、楽しく読ませてもらっています。お忙しいとは思いますが、ぜひ書き続けて下さい。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
勝手ながら、リンクさせて頂きました。
投稿情報: cpainvestor | 2007/09/27 03:17
>cpainvestor-sama
こちらこそよろしくお願いいたします。私は、足を洗おうかしらーと考えているうちにアメリカに流れてきて結局ずーっとこの業務についてるわけですが(笑)差し支えのない範囲で足を洗ったあとの業務の雰囲気も書いてくださいませ。こちら、戯言も含めて書いてますので、興味のあるときだけでも読んでいただければ光栄です。
投稿情報: lat37n | 2007/09/27 23:38