先週から話題沸騰のこの件、いささか出遅れた感はありますが(この時期いつものことです)ちょっと所感をまとめたく書いてみます。
・犯人はMr Average?
この記事に過去のトレーディング損失の一覧が出ていますが、2006年のアマランスの巨額損失のときのブライアン・ハンター(カルガリーの自宅からお金を動かしたりと好き勝手が許されていた?)、ミスター5%と呼ばれた住友金属の浜中康夫氏、ベアリングスのニック・リーソンといい、花形トレーダーの暴走というのがこの手の事件の定型だったように思うんですが、今回のジェロム・ケルビーユ容疑者はごく普通の、たいしたポジションをもてないはずのレベルのトレーダーだったそう。どこをみても「温和で、目立たないタイプ」とかいてありますね。彼は運悪く嵌められてソジェンのほかの損失のスケープゴートになっているのではとまで言われている。まあ、どうやら「他にも似たようなことをやっているトレーダーはいる」とかで、こういう普通の人が起こす事件のほうが根が深い気がする。
・動機?
不正は環境と動機の両方がそろわないと発生しませんが、彼の動機が見えづらい。昨日くらいになって「仏検察はジェローム容疑者は30万ユーロの巨額ボーナスを狙っていた」とかいっているようなんですが、それって自分の与えられた裁量以上のことをやってももらえるんですかね。しかも、30万ユーロって5千万くらい。確かに大金ですが、彼がそもそも年収で10万ユーロ、おそらく、30万ユーロのボーナスってトレーダーとしては破格ではまったく無いのでは。新聞報道から伝わってくる彼の雰囲気からは、「うっかり出してしまった損失の補填をしているうちになんだか損失が膨らんだ」って言うほうがしっくりきますが、それがここまでの金額になるのもよくわからない。この点、普段から大胆に振舞うことが許されている花形トレーダーが自分のロスを許容できなくてどんどんポジションを積んでしまうほうがわかるな。
ところでこれもそのうち映画になるんでしょうね。この、ちょっと陰気そうな内向きの感じは、誰が演じるとしっくり来るかな。。。
・内部統制というよりも
まあ、案の定「リスク管理はどうなってる」「内部統制は大丈夫か」って言われているわけですが、ソジェンは外国会社として米国で上場しているわけでもないのでSOX的な視点ははずしましょう。でも、銀行監査をやってきた私の経験から、普通の銀行の「内部統制」は、ことオペレーションに関してはSOX的内部統制の運用は普通はクリアするレベルだと思うんですね。イヤ、いろいろあるのはわかってますが、でも形式的に整えて「ここまでは大丈夫」ということはできるはず、ってことです。小規模一般事業会社のように、「モニタリングってなんですか?リコンシリエーションっていつするんですか」みたいななにもやってませんがな、って事にはなりにくいということ。それでも悪意をもってすり抜けようとしたら内部統制が機能しないことがあり、まさにそういうケースは発見が遅れるわけです。
で、ふうん、と思ったのが、NYtimesで紹介されていたあるコメント。このトレーダー氏、リヨン大学の大学院で、金融機関のバックやミドルオフィスのプロフェッショナルを養成するコースを終了していて、その大学院の学長が「彼のこの学校でのトレーニングで身に着けたことがこのような不正を犯すにあたってアドバンテージを与えてしまったのではないか」と発言していること。“If you’re good at being a locksmith, then to steal is easier.”
そうかなあ、確かに知識がついたことは確かでしょうけれども、これは一番大事な事が抜けていると思う。これって、「会計監査の経験があるCFOなら監査人を騙して不正をすることが簡単ではないか」というのと同じ理屈になってしまう。(簡単かな。。。)結局、大事なのは、おそらく彼がintegrityを身に着けることなくそのようなトレーニングを終え、トレーダーという職についてしまったことだと思う。切った張ったのトレーダーという仕事でintegrityなどといっても上滑りするのでしょうか。そんなことも無いと思うんですよね。結局、信頼関係がなければ経営者だって大きな裁量をトレーダーに与えられないわけですし。
・・・まあ、integrityはなかなか監査できませんね。きっと、「トレーダー向けにも倫理研修をしています」とか「トレーダーをランダムサンプリングしてインタビューします」とかこれまた形式的で表面的なことになるなあと苦笑する私です。

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